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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)764号 判決 1999年6月09日

原告

中野一美

被告

神戸市

主文

一  被告は原告に対し、金二二九万四三九三円及びこれに対する平成一〇年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、三四九万二一九一円及びこれに対する平成一〇年四月二四日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が原動機付自転車で神戸市道を走行中、路上に放置してあった凍結防止剤の袋に乗り上げて、転倒し、損害を受けたとして、被告に対し、国家賠償法二条に基づいて、損害賠償を求めた事案である。

一  前提事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)

1  交通事故(自損事故)の発生

平成九年一二月一四日午後八時四五分頃、神戸市垂水区小束山七丁目八番一〇号先神戸市道多聞・小寺線路上(以下、右多聞・小寺線を本件道路といい、本件道路の右地点を本件事故現場という。)において、原動機付自転車(以下、原付という。)を運転して、同所を北から南に向けて通行の原告の原付が本件事故現場で転倒し、原告が負傷した(甲一、二及び原告本人。右の自損の交通事故を以下、本件事故という。)。

2  被告は、本件道路の設置、管理者であり、本件事故現場付近の植栽帯(車道と歩道を区分するものであり、その幅・約〇・七五メートル、高さ・約〇・六〇メートルである。)の樹木(低木)の切れ目部分(約〇・四〇メートルの空地部分)に、凍結防止剤(塩化カルシウム)の袋(以下、本件袋という。なお、右袋は、縦〇・五五メートル、横〇・四〇メートル、厚さ〇・一五メートルである。)を二袋重ねて置いた(乙六)。

3  原告の傷害

原告は、本件事故により、外傷性頸部症候群、頭部・左肩・右眼挫傷の傷害(以下、本件傷害という。)を負い、神戸市垂水区所在の神戸徳洲会病院に、平成九年一二月一四日から平成一〇年一月二六日まで四四日間入院し、翌二七日から平成一一年二月五日まで実通院日数三二日間通院した。

そして、原告の本件傷害は、頭痛及び後頸部痛を残した(以下、本件後遺症という。)まま、平成一一年二月九日、症状固定した。

(甲三、一一、一二及び原告本人)

二  争点

1  被告の本件事故に対する責任の有無(本件道路の管理に瑕疵があり、被告が国家賠償法二条一項の管理責任を負うか否か。)

2  右点に関する当事者の主張の要旨

(一) 原告

(1) 本件事故発生の経緯

本件事故直前、原告は、本件事故現場付近の本件道路の左側車線の路側より約一メートル中央寄りの所を北から南に向けて原付で進行していたところ、ロードミラーが立っている付近で、ワゴン車が原告の原付を追い越したが、進路前方に猫の死骸があったので、追い越し直後左にハンドルを切り、原告の直前に幅寄せしてきたので、衝突の危険を感じた原告は〇・五メートル程左側に寄った瞬間被告が放置していた本件袋に原付を乗り上げ、ジャンプして転倒し、原告が負傷するという本件事故が発生した。

(2) 本件事故の原因と被告の責任

<1> 被告は、本件袋を本件道路脇縁石上に積むことにより、これを設置していたが、何らかの事情で、これが路上に滑り落ちるなどしたものと思われる。

<2> ところで、被告は、本件道路の管理責任者であるから、「道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないよう努めなければならない(道路法四二条一項)」という注意義務があるところ、道路上に障害物がある状態は被告の管理義務違反の状態であるから、被告としては、一定の時間内に(例えば、一日とか半日内に)本件道路上に存在した本件袋を除去すべき注意義務があったのにこれを怠り、約六〇時間もこれを放置して、右放置を本件事故の原因としたのであるから、本件道路の管理に瑕疵があり、被告は国家賠償法二条一項の管理責任を負うことになる。

<3> また、そもそも被告は、本件袋を事前に本件道路付近に設置するのでなく、積雪等により凍結防止剤(塩化カルシウム)使用の必要性があるとき毎に、これを設置すればよかったのである。そして、被告が事前にこれを設置する以上は、その管理に意を用い、路上への落下防止等に万全を尽くすべきであるのに、これを怠り、道路を危険な状態にした。

(二) 被告

(1) 前提事実2のとおり、被告は、平成九年一二月一二日午前一〇時頃、本件事故現場付近の植栽帯の樹木(低木)の切れ目部分に、本件袋を二袋重ねて置いたところ、右の設置は、車の走行や人の通行の妨げとならず、誰かがそれを移動させない限り、本件袋が車道に飛び出すことはない。

(2) ところで、本件道路は、相当数のバス便が毎日通過している道路であり被告交通局では、バス路線を巡回する作業車を運行しており、走行の支障となるような道路上の障害物等があれば、その除去等も行っている。また、路線バスの乗務員が道路上の障害物等を発見した場合、営業所に到着次第その旨を所長等に報告し、所長等は作業車に障害物等の除去等を指示するなど、必要な措置を講じることになっている。しかし、被告が本件袋を設置した平成九年一二月一二日午前一〇時頃から本件事故発生までに、市バスの乗務員から本件道路上に本件袋が落ちていたという報告はなく、被告としては、本件道路上に本件袋が放置されていたという原告の主張は事実に反すると考えている。更に、被告の建設局では、「休日・夜間緊急連絡センター」を設け、道路上に障害物があれば、市民或いは警察等から通報を得て、直ちに当該障害物の除去に努めているが、被告が本件袋を設置した平成九年一二月一二日午前一〇時頃から本件事故発生までに、そのような通報はなされていない。

よって、被告は、本件事故現場に、本件袋が放置されており、原告の原付がそれに乗り上げ、ジャンプして転倒した旨の原告の主張を争う。

(3) 仮に、原告主張のように本件事故現場に本件袋が放置されていたとしても、その放置された時刻が明らかでなく、原告が本件事故に遭う直前に誰かがそれを放置した可能性もある。むしろ、本件道路は、幹線道路であり引切りなしに二輪車が通っているのに、他の二輪車が事故を起こした形跡はなく、原告の原付のみが本件事故を起こしたのであるから、本件袋は本件事故の直前に誰かにより本件道路に放置された可能性が高いものと考えられる。そうすると、被告としては、時間的に遅滞なく、これを原状に復し、道路を安全に良好な状態に保つことは不可能であったというべきで(最高裁一小法廷、昭和五〇年六月二六日判決参照)、被告に管理瑕疵責任はない。

(4) また、原告は被告の職員に対し、「本件袋に乗り上げ、植栽帯を飛び越え、歩道までジャンプして転倒した。」と説明したところ、それが事実だとすると、右乗り上げ時の進入角度と当時の原付の速度(時速三〇ないし四〇キロメートル)からして、本件袋がなければ、原付は縁石に激突していたはずである。したがって、本件事故は、本件袋が本件事故現場に存在したか否かにかかわらず、原付に急に幅寄せしたワゴン車と原告の原付との道路交通法違反により発生したものであり、本件袋の放置と本件事故との間には因果関係がないものというべきである。更にいえば、本件袋があったことにより、原付は縁石に激突することを免れたのであるから、原告の傷害は軽くてすんだともいえる。

(5) ところで、原告は、被告が積雪等により凍結防止剤(塩化カルシウム)使用の必要性があるとき毎に、これを設置すればよかったのであると主張するが、予め凍結防止剤を配置することは、他の自治体でも一般に実施している方法であり、総延長五三三六キロメートル余りの道路の管理をしている被告が道路を常時良好な状態に保つ一方法として、予め凍結防止剤を配置することは許される範囲内のことと考える。

3  本件事故につき、過失相殺の適用の有無及びその程度(被告の予備的主張関係であるが、以下、争点2という。)

4  右点に関する当事者の主張の要旨

(一) 被告

仮に、本件事故につき、被告に道路の管理責任があるとしても、以下の事情に照らして、相応の過失相殺がなされるべきである。

(1) 原付の最高速度は、時速三〇キロメートルと制限されているが、前記のとおり原告の原付は、本件事故当時、時速三〇ないし四〇キロメートルで走行していた。原告が右制限速度内で走行していれば、原付が植栽帯を飛び越え、歩道までジャンプして転倒するということはなかったと思われ、また、原告の損害も少なくてすんだと思われ、原告には制限速度違反という過失がある。

(2) 本件事故現場付近には、水銀灯が設置され、また、夜間であるから、車両はライトを点けており、原付及び追越車のライトで前方がよく見えたはずであるところ、本件道路に本件袋(白色系の色をしている。)が放置されていたとしても、原告が前方を注視していれば、本件袋の存在に気が付き、本件袋を避けて走行するか事前に減速できたはずであり、そうしていれば、本件事故は起こらなかったか、原告の損害も少なくてすんだと思われ、原告には前方注視義務違反という過失がある。

(二) 原告

本件事故は、夜間の照明の十分でない道路脇で発生しており、時速三〇ないし四〇キロメートルで走行している原付から、道路端約五〇センチメートルの所にころがっている一〇キログラム入りの高さ約一〇センチメートルの本件袋を確認し、これを避ける運転をすることは無理であり、原告には過失はない。

5  原告の損害額は幾らか(以下、争点3という。)

6  右点に関する当事者の主張の要旨

(一) 原告

(1) 治療費 二〇万七八〇五円

<1> 入院分 一九万八二二五円

<2> 通院分 九五八〇円

(2) 物損 三〇万八〇〇〇円

<1> バイク 一七万五〇〇〇円

<2> ヘルメット 八〇〇〇円

<3> 時計 一万円

<4> 眼鏡 九万五〇〇〇円

<5> 衣服 二万円

(3) 休業損害 八七万六三八六円

<1> 原告は、神鉄交通株式会社のタクシー運転手として勤務していたが、本件事故のため平成九年一二月一四日から平成一〇年二月一〇日まで五九日間欠勤し、その間の得べかりし賃金と一時金の減収を来した。

<2> 本件事故前三か月間の賃金合計は、九六万八九九〇円であり、稼働日数は八六日であるから、日額賃金は一万一二六七円である。

<3> 右の一万一二六七円に五九日間を乗じると、六六万四七五三円となる。

<4> 一時金の減収額は、二一万一六三三円である。

<5> 右合計は、八七万六三八六円である。

(4) 慰謝料 一八〇万円

<1> 後遺障害分 一一〇万円

本件後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令別表所定の一四級「局部に神経症状を残すもの」に該当する。

<2> 入、通院分 七〇万円

(5) 弁護士費用 三〇万円

(6) 合計 三四九万二一九一円

(二) 被告

原告主張の右損害は、争う。仮に認められるとしても、前記のとおり過失相殺がなされるべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1、2関係

1  事実認定

前提事実1、2と、証拠(甲二、乙一及び二の各1ないし3、五ないし七、検甲五、証人上原稔及び原告本人)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件事故発生の経緯

本件事故直前、原告は、本件事故現場付近の本件道路の左側車線の路側より約一メートル中央寄りの所を北から南に向けて時速四〇キロメートル前後位で原付で進行していたところ、ロードミラーが立っている付近で、後続のワゴン車が原告の原付を追い越したが、進路前方に猫の死骸があったので、追い越し直後左にハンドルを切り、原告の直前に幅寄せしてきたので、衝突の危険を感じた原告はブレーキを掛けながら〇・五メートル程左側に寄った瞬間本件袋{被告は、平成九年一二月一二日午前一〇時頃、本件事故現場付近の植栽帯の樹木の切れ目部分に本件袋を二つ重ねて設置した(なお、紐等で固定するなどの転落防止措置は、採られていなかった。)ところ、本件袋の一つが何らかの事情でL型側溝と走行車線との境目付近に移動されていた。なお、本件袋の色は白色系で、形状は縦〇・五五メートル、横〇・四〇メートル、厚さ〇・一五メートルである。}に原付を乗り上げ、ジャンプして三ないし四メートル先まで飛んだ後に本件道路上に転倒し、原告が負傷するという本件事故が発生した。

(二) 本件事故発生前後の諸事情

(1) 主に原告側の事情

<1> 本件事故当時は、夜であったが、本件事故現場付近の照明灯(水銀灯)により本件事故現場は三ルクス程度の明るさがあり、また、原告の原付を追い越したワゴン車及び原告の原付の各ライトの照射により、本件袋の色が白色系であることと相俟って本件事故現場は原告が注意深く前方を見ていれば、そこに本件袋が放置されていることが分かる程度の明るさがあったにもかかわらず、原告は本件事故時点で本件袋の存在に気が付かないまま本件袋に乗り上げた。

<2> 原付の最高制限速度は、時速三〇キロメートルであるところ、原告の原付は本件事故直前、時速四〇キロメートル前後位で進行していた。

<3> 本件事故直前頃、何台もの原付又は自動二輪車が本件袋が放置された状態の本件事故現場を通過したが、原告の原付以外事故に遭った形跡はない。

<4> 原告は、右のとおり後続のワゴン車による原告の原付の追越とその直後の原告の直前への幅寄せに際し、身を守るためブレーキを掛けながら〇・五メートル程左側に寄ったところ、その寄り方は急ハンドルを伴うものであったので、本件袋に乗り上げなかった場合、即ち、本件袋が存在しなかった場合、原告の原付は縁石に衝突し、本件事故とは別の形態の自損事故が発生していた可能性が高かった。

(2) 被告側の事情

<1> 被告は、平成九年一二月一二日午前一〇時頃、本件事故現場付近の植栽帯(車道と歩道を区分するものであり、その幅・約〇・七五メートル高さ・約〇・六〇メートルである。)の樹木(低木)の切れ目部分(約〇・四〇メートルの空地部分)に、凍結防止剤(塩化カルシウム)の本件袋(なお、本件袋は、縦〇・五五メートル、横〇・四〇メートル、厚さ〇・一五メートルである。)を二袋重ねて置いたところ、右の設置場所から約二二〇メートル以内に植栽帯を挟む本件道路の歩道部分に出入口が面する住宅はなく、右の設置が車の走行や人の通行の妨げとならず、誰かがそれを移動させない限り、又は車の通行に伴う振動等により本件袋が滑落する以外本件袋がL型側溝及び車道に飛び出すことはない。

<2> 被告が本件袋を事前に設置した目的は、次のとおりである。即ち、被告は最新の気象情報を入手できるシステムを保有しており、路面が凍結するような寒波の襲来については、予め把握できる体制にあり、路面の凍結を予想できる場合には、被告の職員が凍結防止剤(塩化カルシウム)を路面に散布して回るのであるが、右の予知体制にも限界があり、予想外の路面凍結に備えて、予め本件袋を幹線道路各所に設置して、その必要がある場合には、市民が自主的に凍結防止剤(塩化カルシウム)を路面に散布できるようにしていた。そして、この方法は、他の自治体でも一般に行われている方法であった。なお、被告は、本件袋を本件事故現場付近に設置するに際し、二袋を重ね、かつ、二袋を紐で縛るなどの滑落防止措置又は盗難防止措置を採らなかった。

本件袋は被告により本件事故現場付近の植栽帯に平成九年一二月一二日午前一〇時頃設置されたことが認められるが、右時点から本件事故発生の平成九年一二月一四日午後八時四五分頃までの間のどの時点で、本件事故現場に誰により放置されたか又は本件袋が右植栽帯から滑落したか否か、滑落したとしてその場所から本件事故現場にどのような経緯で移動したかについては、本件全証拠によるも、それを特定するに足りない(因みに、以上認定の被告側の事情を総合すると、本件袋が本件事故の直前に誰かにより本件事故現場に故意に放置された可能性も否定できないが、同時に以上認定の被告側の事情のみでは、以上の監視システムが一〇〇パーセント機能しているという保証はないから、右のように断定することもできない。)。

(一) 争点1について

(1) まず、被告は、本件道路の管理責任者であるから、「道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないよう努めなければならない(道路法四二条一項)」という注意義務があるところ、本件道路は本件事故発生当時、道路上の障害物(本件袋)の故に、客観的に道路が備えるべき安全性を欠如していたことは明らかである。

(2) 次に、被告は、本件袋は本件事故の直前に誰かにより本件道路に放置された可能性が高く、被告としては、時間的に遅滞なく、これを原状に復し、道路を安全に良好な状態に保つことは不可能であり、被告に管理瑕疵責任はない旨の主張(これは不可抗力の抗弁と位置付けられる。)をするのでこの点について、検討する。

右のとおり本件袋が本件事故現場付近の植栽帯から本件事故現場に放置(誰かが人為的に移動した場合)又は移動(車の通過時の振動等により本件袋が自然に滑落し、その後何らかの事情で本件事故現場まで移動した場合など)した時点は不明であり、本件全証拠によるも、右の時点を特定するに足りない。

ところで、道路管理者が道路通行上の障害物を除去するなど道路の安全を原状に復し、道路の安全を保持することが時間的に不可能であった場合は、道路の管理に瑕疵がなかったというべきであるところ(最高裁一小法廷、昭和五〇年六月二六日判決、最高裁判所判例解説民事篇昭和五〇年度二六一頁参照)、本件では被告が道路通行上の障害物(本件袋)を除去するなど道路の安全を原状に復し、道路の安全を保持することが時間的に不可能であったことの立証がなされていないのであるから、被告は本件道路の管理瑕疵責任を免れないものというべきである。

(3) 更に、被告は、本件袋を事前に本件道路付近に設置する以上は、その管理に意を用い、路上への落下防止、盗難防止等に万全を尽くすべきであるのに、紐等で固定する或いは町内会等との連携の下に本件袋の管理に万全を期することなく、安易に落下防止措置、盗難防止措置等を採らず、かつ本件袋を二つ重ねて設置した(二つ重ねにすれば、上の袋が滑落しやすいのは明らかである。)ことにより、本件袋を本件事故現場に放置又は移動させたのであるから、この点においても、被告は本件道路の管理瑕疵責任を免れないものというべきである。

(4) また、被告は、本件袋がなければ、原付は縁石に激突していたはずであり、本件事故は、本件袋が本件事故現場に存在したか否かにかかわらず、原付に急に幅寄せしたワゴン車と原告の原付との道路交通法違反により発生したものであり、本件袋の放置と本件事故との間には因果関係がない旨を主張するが、本件袋が本件事故現場になければ、本件事故とは別の形態の自損事故が発生した可能性があるというだけのことであり、本件事故は本件袋が本件事故現場に存在したが故に発生したものであり、被告の右主張は採用できない。

(二) 争点2について

(1) 本件事故現場は原告が注意深く前方を見ていれば、そこに本件袋が放置されていることが分かる程度の明るさがあったにもかかわらず、原告は本件事故時点で本件袋の存在に気が付かないまま本件袋に乗り上げたのであるから、原告には前方不注視の過失があるものというべきである。

(2) 原付の最高制限速度は、時速三〇キロメートルであるところ、原告の原付は本件事故直前、時速四〇キロメートル前後位で進行していたのであるから、原告には制限速度違反の過失があるものというべきである。

(3) 以上の原告の各過失に、本件に現れた一切の事情を合わせ考えると、本件事故における原告の過失割合は、二割五分と認めるのが相当である。

二  争点3関係

1  事実認定

前提事実3と、証拠(甲四の1ないし4、五の1ないし16、六ないし一〇(但し、甲九はその一部)、検甲一ないし八及び原告本人)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、右認定に反する甲九は原告作成の単なるメモであり、それを裏付ける客観的証拠がないから、その証拠価値は高くなく、かつ、それとは反対趣旨の前掲の関係各証拠に照らしてそのままには信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告の傷害

原告は、本件事故により、本件傷害を負い、神戸市垂水区所在の神戸徳洲会病院に、平成九年一二月一四日から平成一〇年一月二六日まで四四日間入院し、翌二七日から平成一一年二月五日まで実通院日数三二日間通院した。

そして、原告の本件傷害は、本件後遺症を残したまま、平成一一年二月九日、症状固定した。

(二) 原告の損害

(1) 治療費 二〇万七八〇五円

<1> 入院分 一九万八二二五円

<2> 通院分 九五八〇円

(2) 物損

<1> バイク

原告は、バイク(原告の原付)を平成五年一〇月頃、妻さよ子名義で本体価格一六万円位で購入したところ、原告の原付は本件事故当時でその走行距離は三二七三キロメートル位に達する中古車であった。

ところで、原告の原付は、本件事故によりハンドルがぶれるようになり、その危険性の故に使用に耐えなくなった。

<2> ヘルメット 七〇〇〇円

原告は、ヘルメットを七〇〇〇円位で購入したところ、本件事故によりヘルメットは大きく割れ、使用に耐えなくなった。

<3> 時計

原告は、時計を一万円位で購入したところ、本件事故により時計の表面の強化ガラスが傷付いた。

<4> 眼鏡 九万五〇〇〇円

原告は、眼鏡を九万五〇〇〇円位で購入したところ、本件事故により眼鏡のレンズが傷付き、フレームが曲り、使用に耐えなくなった。

<5> 衣服 二万円

原告は、衣服を二万円位で購入したところ、本件事故により衣服が損傷し、使用に耐えなくなった。

(3) 休業損害 八七万六三八六円

<1> 原告は、神鉄交通株式会社のタクシー運転手として勤務していたが、本件事故のため平成九年一二月一四日から平成一〇年二月一〇日まで五九日間欠勤し、その間の得べかりし賃金と一時金の減収を来した。

<2> 本件事故前三か月間の賃金合計は、九六万八九九〇円であり、稼働日数は八六日であるから、日額賃金は一万一二六七円である。

<3> 右の一万一二六七円に五九日間を乗じると、六六万四七五三円となる。

<4> 一時金の減収額は、二一万一六三三円である。

<5> 右合計は、八七万六三八六円である。

(4) 慰謝料

<1> 後遺障害分

原告には、右(一)(原告の傷害)のとおり本件後遺症が残存した。

<2> 入、通院分

原告の本件傷害の治療用の入、通院の実態は、右(一)(原告の傷害)のとおりである。

2  判断

以上の事実によると、原告の損害は、以下のとおり認められる。

(一) 治療費 合計二〇万七八〇五円

(二) 物損

(1) バイク分 一二万円

原告の原付は、購入から四年以上経過し、走行距離が三二七三キロメートル位に達する中古車であるから、中古品の損害として、その損害を一二万円と認めるのが相当である。

(2) ヘルメット分 七〇〇〇円

(3) 時計分 三〇〇〇円

原告は、時計を一万円位で購入したが、本件事故により全体が損壊したのではなく、時計の表面の強化ガラスが傷付いたのみであるから、時計分の損害は三〇〇〇円と認めるのが相当である。

(4) 眼鏡分 九万五〇〇〇円

(5) 衣服分 二万円

(6) 合計 二四万五〇〇〇円

(三) 休業損害 合計八七万六三八六円

(四) 慰謝料 合計一四五万円

(1) 後遺障害分 七五万円

本件後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令別表所定の一四級「局部に神経症状を残すもの」に該当するものと認められるところ、この点を斟酌して、後遺障害慰謝料は七五万円と認めるのが相当である。

(2) 入、通院分 七〇万円

原告の本件傷害の治療用の入、通院の実態は、右(一)(原告の傷害)のとおりであるから、入、通院慰謝料は七〇万円と認めるのが相当である。

(3) 合計 一四五万円

(五) 以上総合計は、二七七万九一九一円となる。

(六) 過失相殺による修正

そこで、前記の割合により、過失相殺をすると、原告の損害は、右二七七万九一九一円に七割五分を乗じた二〇八万四三九三円(円未満切捨て)となる。

(七) 弁護士費用相当額の加算

原告が原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、右(六)の認容額その他本件に現れた一切の事情に照らすと、被告に負担させるべき弁護士費用相当額の損害は二一万円と認めるのが相当である。

(八) まとめ

よって、被告は原告に対し、右合計二二九万四三九三円の損害賠償義務がある。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、右二二九万四三九三円及びこれに対する本件事故日の後である平成一〇年四月二四日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由があるから、右限度で認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判官 片岡勝行)

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